「まんまるきつね」(川島えつこ)

まんまるきつね (ポプラの木かげ)

まんまるきつね (ポプラの木かげ)

のりまきを食べながら、まゆは空をあおいだ。目のさめるような青が、どこまでもつづいている。まったく、なんだって、こんなにいい天気なんだろう。ほんとうに、ひとりぼっちのような気がした。

 ポケットの中に自分だけが見えるちいさなきつねを飼っている少女まゆを主人公とする叙情的な小品です。物語世界にはファンタジーの産物であるきつねが介在していますが、語られているのはありふれた日常です。両親の離婚や、背が低いというだけの理由で騎馬戦の騎手に選ばれたことなどをまゆはうじうじと悩みます。淡々とした流麗な文体が心地よく、独特のメランコリックな作品世界を味わわせてくれます。もしかしたらこの新人は、森忠明クラスの鬱小説の書き手に成長するかもしれません。期待大です。
 ただそれだけに、明るい方向を示した結末が安易なものに思えてしまいました。次回作はぜひリアリズムに徹した作品に挑戦してもらいたいです。
 また、スドウピウのイラストも印象的でした。ページの端の人物やものがぶつ切りになっていたり、章と章の切れ目に川を配置して分断したりと、イラストが激しい自己主張をしています。116,117ページでは山の線が文字の上にかかっていて、ほとんどノイズになっています。この作品の挿絵としてふさわしいかどうかは判断できませんが、面白い試みではあると思いました。