- 作者: ロイスキース
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2003/04/17
- メディア: 単行本
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少女小説で繰り返される障害の奇跡的治癒というモチーフが何を意味するのか?このようなモチーフによってゆがめられてしまう読者の障害観を、筆者は五つのポイントにまとめています。
(1)障害を負うことには、いいことは何もない。
(2)障害者の人々は、女性が常に身につけなくてはならない、忍耐、明るさ、何ごとも精一杯やることなどの従順な行動と同じ性質のものを身につけなければならない。
(3)障害は、悪い行いのため、邪悪な考えのため、十分によい人ではないための罰である可能性がある。
(4)障害者は罰せられるよりも哀れみを受けるべき存在ではあるが、決して受け入れられることはない。
(5)もし治ることを望み、自分自身を十分に愛することができ(ただし他人を愛するよりも愛してはいけない)、神を信じれば障害は治癒可能である。
障害は克服すべき悪徳であり、障害者自身の精神的成長(ただし女性が身につけるべきだとされる伝統的な価値観に基づいた成長)によって障害は奇跡的に治癒するというのが物語の前提になっているため、本来障害者の自立を助ける道具であるはずの車椅子が、克服すべき枷の象徴として扱われるという、奇妙な錯誤が起きてしまいます。 根性論で障害や病気が治るという困った信仰は社会にはびこっていて、文学固有の問題ではないと思いますが、やはりこのような誤ったメッセージが子供の接するメディアで垂れ流されている現状は問題にされるべきでしょう。第7章では20世紀の英語圏の児童文学が概観されていますが、この問題に関して目立った進歩はみられないようです。著者が日本の佐藤州男や丘修三の作品をどう評価するかぜひきいてみたいです。