「クジラがクジラになったわけ」(テッド・ヒューズ)

クジラがクジラになったわけ (岩波少年文庫 (081))

クジラがクジラになったわけ (岩波少年文庫 (081))

 タイトルからわかるように、様々な動物の起源を語った物語です。これがどの話も風刺が効いてて非常に毒が強かったです。
 クジラははじめクジラ草として神さまの野菜畑に生えていました。ところがあまりにもでっかく育ってしまったので、海に追放されてしまいます。クジラは陸に戻りたくて、小さくなるために懸命にしおを噴きますが、すぐに疲れてお昼寝をしてしまうのでいつまでたっても陸に帰ることができません。かわいそうなんですが、ふくれたり縮んだりするクジラの姿はなんともユーモラスです。
 北極グマは色白で大変な美人さんでした。こいつがいると美人コンテストで一番になれないので、ハヤブサが騙して北極に追いやります。しかし北極グマは騙されているともしらず、崇拝者に囲まれて北極でしあわせに生きているのが皮肉です。
 うぬぼれ屋のウサギは自分にふさわしいすばらしい王女様を捜していました。それで、お月さまがウサギと結婚したがっているというカモシカの嘘を真に受けてしまい、いつまでも月にむかって跳ね続けることになります。
 一番毒が強かったのはミツバチのお話でした。唯一悪魔につくられた動物であるミツバチには、体内に血ではなく悪魔の涙が流れていました。悪魔の涙のせいでミツバチはいつもくらくて悲しい気分におそわれています。悪魔の涙を甘くしておくために、ミツバチは永久に花の蜜を集めてまわらなければならなくなってしまいました。ミツバチの抱えている業の深さに慄然とさせられてしまいます。