「エルマーのぼうけん」(ルース・スタイルス・ガネット)

エルマーのぼうけん (世界傑作童話シリーズ)

エルマーのぼうけん (世界傑作童話シリーズ)

 渡辺茂男を偲んで。手元にある本の奥付を確認すると、2002年6月で新版第88刷になっています。初版は1964年。まさに世代をこえて愛されている作品といえます。このエルマーシリーズをはじめ、「おさるのジョージ」やグラマトキーののりものどうわなど、親子で楽しむのに最適な幼年童話をたくさん日本に紹介した彼の功績ははかりしれません。
 「エルマーのぼうけん」はどうぶつ島にとらわれているりゅうを助けるために、少年エルマーが単身島に乗り込むお話です。エルマーはどうぶつ島のことを教えてくれたねこのアドバイスに従って、リュックに様々なものを詰め込んで出かけます。「チューインガム、ももいろのぼうつきキャンディー二ダース、わゴム一はこ、くろいゴムながぐつ、じしゃく一つ、はブラシとチューブいりはみがき、むしめがね六つ」などなど。エルマーはこれらの道具をひとつひとつ使っていろいろな危機を切り抜けます。どの道具もそれしかないと思えるくらい見事な使い方をされます。このお約束が楽しいです。相当な計算のもとに構成されている作品だといえましょう。
 また、視覚的なおもしろさも計算しつくされています。どの場面も絵になること絵になること。表紙のたてがみを三つ編みにしたライオンだけでものすごいインパクトを与えてくれますが、中はもっとすごいです。クライマックスのどうぶつたちがワニの上に乗って立ち往生している場面は傑作です。
 文句なしの名作です。これから先も多くの子供たちがこの作品に出会って読書の楽しさに目覚めるはずです。渡辺茂男の名が忘れられることもないでしょう。