「青葉学園物語 翔ぶんだったら、いま!」(吉本直志郎)

翔ぶんだったら、いま! (児童読物傑作集―青葉学園物語)

翔ぶんだったら、いま! (児童読物傑作集―青葉学園物語)

ねえちゃん、ほら……あそこでも、いっぱい人をやきよるぞ。へいたいさんが、やきよるぞ。見にいこう、ねえちゃん

 青葉学園の秋の物語です。2000円という大金を拾った子供達は学校をさぼって町に繰り出します。ところが昼食を食べようと入ったうどん屋で、辛気くさい老夫婦に原爆で死んだ孫の話をきかされ、普段は考えることのない戦争のことを思い出してしまいます。
 いつもうざったいくらいに明るい青葉学園の子供達ですが、彼らはみな原爆で家族を失った過去を抱えています。この巻で彼らは原爆の記憶と直面することになります。焼け跡で姉の恵子と母親を捜して歩き回った和彦の思い出は涙なしに読むことはできません。
 「お父さんやお母さんがおらんのは、悲しいことじゃと思うこと、あるか?」と問われた和彦は以下のように答えます。

悲しいじゃの思うたことないわい。とうのむかしに死んだ人びとじゃけえのう。あの人らは

 子供は子供で死者との距離の置き方をつかんでいるのだと、考えさせられるセリフです。