「先生たいへん事件です」(岸武雄)

先生たいへん事件です (フォア文庫)

先生たいへん事件です (フォア文庫)

 カメが小鳥を食べるのは残酷なのか。ニワトリは水をのむとき、どうして上をむくのか。ウサギのあかちゃんは死んだらどこへいくのか。四年三組の子供達は動物の飼育を通してこんな疑問を持ち、学級会で話し合っていきます。やがて学校で動物を飼育する予算がなくなり、教頭先生が学校の動物園の縮小を通告してきました。動物たちと別れたくない子供達は、餌代を確保する方法を模索します。
 子供の日常の素朴な疑問をうまく導き、問題解決能力を養っていく、教育の理想を描いた作品です。説教臭さはぬぐえませんが、ニワトリが上を向いて水を飲むという小さな発見、女の子が自分の首筋でウサギの赤ちゃんをあたためるエピソードと、子供の興味を引くネタを巧みに取り込んでいて読ませます。
 古い作品なので現代の視点で読むとあらがないわけではありません。一年分の餌代をたった二ヶ月で使い切ってしまう教職員の計画性のなさはいくらなんでもありえません。
 最後の二ページ、理屈バカのひねくれた男子が穏やかになった理由が家出していた母親が帰ってきたからだと明かしたのは蛇足もいいところです。子供がよくなるもわるくなるも母親のせいとは、それでは今まで賛美してきた学校教育を否定しているも同然です。1912年生まれの岸武雄の限界がこのあたりに現れているのでしょう。