「みかえり橋をわたる」(高田桂子)

みかえり橋をわたる

みかえり橋をわたる

 暇をもてあました寒村の老人クラブの老人たちが人助けをするお話、と紹介してしまうとぬるい話のように感じられてしまいますが、この作品はなかなか危険です。
 基本的なストーリーラインは、よそからやってきたばかりの研究所の所長や孫たちと関わりながら老人が人助けをするだけです。しかし村に伝わるきつねをめぐる伝説、人の行き来を阻む橋などのふしぎな存在が日常と地続きにあり、非常に不穏な空気を醸し出しています。
 これだけ老人が雁首を揃えていながら、賢人の役割を千恵という小学生の少女が務めているのが特異です。千恵は事件が起こるたびに村に伝わる伝説を語り、事件に対する解釈めいたものを提示します。その伝説にはさまざまなヴァリエーションがあり、千恵は状況に応じて自在に物語をもてあそびます。さらに、友人との会話で意味ありげなことを漏らします。

「なんだか、かったるいのよ、このごろ。何がおこっても、村じゅうの人が知っているし、いつも同じパターンで、村じゅうそろって、めでたしめでたしばっかりなんだもの。そんなの、ちょっとちがうって気がするんだよなあ……」

 まるで千恵は物語の外側にいる存在のように感じられます。彼女が最終的にたどった道はどう受け止めればいいのでしょうか。
 深読みすれば難解な作品で、一読しただけでは全体像がつかめませんでしたが、おそらくこれは境界をめぐる物語なのだろうと思います。現実と異界の境界に揺さぶりをかけるあやうい作品です。2006年の大きな収穫のひとつだといえましょう。