「空をつかむまで」(関口尚)

空をつかむまで

空をつかむまで

 第22回坪田譲治文学賞受賞作。市町村合併にともない廃校になってしまう中学校の名前を残すため、中学生三人組がトライアスロン大会に挑むお話です。いつの間にか謎の老人が指導者役をかって出るとかベタな展開が鼻につきます。でも、ベタはベタなりにやるべきことはきっちりこなしているので、さわやかスポーツ小説として楽しめる作品にはなっています。
 登場する子供たちはそれぞれ陰惨なトラウマを持ち苦しんでいるのですが、そこで「心の闇」がうんたらという解釈を否定してみせた姿勢は頷けます。

 世の中じゃぼくらと同い年のやつらが、ナイフで友だちを刺したり、バットで親を襲ったりする事件が起きている。大人たちはみんなぼくらに心の闇があって、病んでいるのだと口にする。
 けど、そんなんじゃない。ぼくたちは病んでなんかいない。大人たちに押しつけられた歪みに耐えられないやつが出てきているだけだ。心の闇なんてない。ぼくたちはあと少し考える力が必要なだけだ。(203ページ)