「時間のない国で」(ケイト・トンプソン)

時間のない国で 上 (創元ブックランド)

時間のない国で 上 (創元ブックランド)

時間のない国で 下 (創元ブックランド)

時間のない国で 下 (創元ブックランド)

 アイルランドの田舎町で、時間が消えるという不思議な現象が起こっていました。何をするにも時間が足りず、時間が飛ぶように過ぎ去ってしまいます。そんな中リディ家の長男JJは、母親の誕生日のプレゼントに時間を買おうと、地下壕の壁から異世界へ旅立ちました。と、このあらすじを見るとすわ「モモ」のパクリかと身構えてしまいますが、目指している方向が全然違うので目くじらを立てる必要はありませんでした。時間のある国とは異なる感性を持つ、「永遠なる若さの国、ティル・ナ・ノグ」の住人との交歓を描いた楽しい読み物です。
 キリスト教の威光の届かないケルト神話世界の豊穣さが感じられます。ティル・ナ・ノグに住む妖精たちは時間に追い立てられることがないのでおおらかな性質を持っています。時間を買いたいというJJの申し出を彼らはあっけないほど簡単に承諾してくれます。しかしなんともとぼけた落とし穴が待ち受けており、JJはがっくりさせられてしまいます。人間とは違う価値観の持ち主を楽しく描きつつ、人間に対する洞察も見せています。
 なぜアイルランドの時間がなくなってしまったのか?JJのひいじいさんが手を染めたという犯罪の真相は?いろんな謎が興味を引っ張り、伏線はバレバレなんですが最後まで一気に読ませてくれます。