「ウルフィーからの手紙」(パティ・シャーロック)

ウルフィーからの手紙

ウルフィーからの手紙

 ベトナム戦争時代のアメリカが舞台。13歳の少年マークは戦地に行っている兄のダニーから、陸軍が軍用犬を募集しているという情報を得ます。マークは人気者の兄に劣等感を持っており、いつもみんなの話題の中心に兄がいることを面白く思っていませんでした。そこで自分もみんなの注目を得ようと、愛犬のウルフィーを軍に供出してしまいます。やがて彼は自分の間違いに気付き、ガールフレンドのクレアらの助けを借りてウルフィーを取り戻すための活動をはじめます。
 読者である子供にとって戦争児童文学を当事者意識を持って読むことは困難です。この作品はその問題をうまくクリアしています。マークは自らの選択によりウルフィーを軍に供出し、主体的に戦争に参加してしまいました。そのためウルフィーの運命に対してマークは責任を持たざるを得ません。こうして主人公の子供に責任を背負わせたことで、読者もわがことのように戦争の物語に入り込めるように工夫されています。
 市民が政治の主役であること、思想が違っていても手を取り合うことはできること。よい意味でアメリカ的な価値観を訴えていることにも共感できます。戦争が泥沼化する中、マークがさまざまな人々の助力を得てデモを成功させていく展開は涙なしには読めません。いい本でした。