「子どもの本と〈食〉 物語の新しい食べ方」(川端有子・西村醇子/編)

子どもの本と〈食〉物語の新しい食べ方

子どもの本と〈食〉物語の新しい食べ方

 子供の頃読んだ本について思い出話をするときに、食べ物の話題は欠かせません。ぐりぐらのカステラがおいしそうだったとか、金泉堂のケーキが最高だとか、あんな素敵なプリン*1を出されたらエドマンドじゃなくても裏切り者になるだろうとか。児童書において食が重要なテーマであることは間違いありません。そこに目をつけたのが白百合女子大学児童文化研究センターでした。本書では彼らの研究活動の一端に触れることができます。川端有子による前書きでは興味深い論点がいくつも提示されています。

 〈食〉は、モラル、エコロジー、身体論、セクシュアリティ、コミュニケーション、カルチュラル・アイデンティティ、家族のあり方などの問題を、子どもたちにとって最も身近なかたちで表象する。そしてその表象が、そのときどきの文化や社会を色濃く反映していることを思うと、〈食〉は、児童文学の本質に迫る上でも、また子どもたちをめぐる諸問題を考える上でも、格好の題材なのである。(p3-p4)

 ただし、前書きで提示されたテーマの全てにこの本の内容だけで充分踏み込めているわけではなく、ちょっと物足りない印象はありました。そこは第二弾に期待したいです。
 60年代を転機として幼年文学における食の扱いが変化したという佐々木由美子の発見が印象に残りました。古い幼年童話では子供の食欲が露骨に描写されることがあまりなく、60年代から「がつがつ食べる作品群が登場」したことが指摘されています。その理由は以下のように分析されています。

 そして、新しい作品の誕生には、食べ物に対する意識の変化や社会の勢い、新しい幼年文学を創作しようとするエネルギーだけでなく、幼児観の変化もあったのではないかと思われる。幼い子どもの好奇心旺盛な、がつがつとしたところを、卑しむべきもの、野蛮なものと見るのではなく、エネルギーに満ちたものとして肯定的にとらえる幼児観へと変わったのではないだろうか。(p48)

*1:瀬田貞二信者としてはあれは誰が何と言おうとプリンです。ターキッシュ・ディライトなんて知りません。