「ラジオ・キス」(白倉由美)

ラジオ・キス (YA! ENTERTAINMENT)

ラジオ・キス (YA! ENTERTAINMENT)

 一日で人から忘れられてしまう少女波と、波のことを覚え続けることができる少年渚の、ファンタジー風味の恋愛小説です。学校の放送室で夜中にひっそりとラジオを放送している波。渚はその放送を偶然聞き、波との交流を深めていきます。
 あざとい設定でありきたりのトラウマを持った登場人物たちが活躍するわかりやすい小説です。ですが、プール、夜の放送室、「泣くこと厳禁」など小道具が利いていて、それなりにいい雰囲気はつくれています。これらの小道具を見ると、現役世代よりもむしろもうちょっと上の世代のノスタルジーに訴える作品としてつくっているようにもとれます。
 作品世界に過去の時間と未来の時間を混在させていることが、そうした雰囲気を生み出した要因になっています。物語のラストで波が渚に向けてラジオの電波を送っていた学校の放送室は実は存在しなかったことが明かされます。渚の通っている学校は情報ネットワークが整備されていて放送室を必要としない未来の学校だったのです。この仕掛けは面白かったです。