「ビビを見た!」(大海赫)

ビビを見た! (fukkan.com)

ビビを見た! (fukkan.com)

 盲目の少年ホタルは「おまえののぞみをかなえてやろう」という不思議な声を聞きます。その後すぐホタルの目は見えるようになりました。ところがそれと同時に周りのみんなの目が見えなくなってしまいます。その上町に正体不明の「敵」が接近してきて、女と子供と老人は電車に乗って逃げ、男たちは武器を持って戦うことになります。
 さすが名高いトラウマ本だけあって有無を言わせぬ迫力があります。赤や緑に目を光らせた群衆が怖い。何の説明もなくイモムシ型になる特急列車が怖い。「敵」も怖いし、ヒロインのはずのビビも怖い。読者置いてきぼりの強引な展開を荒々しさだけで成立させている、ものすごい力業を見せられてしまいました。
 しかしこれを視覚障害を描いた文学としてみると点を辛くせざるを得ません。だって作者がホタルが全盲であったという設定を忘れ去っているんだから。ホタルはついさっきまで何もみえなかったはずなのに一目見ただけでなんでも識別してしまうし、母親の目が「へん」で「ぼくをちゃんと見ている目じゃない」なんてことまでわかってしまいます。そもそも始めてものを見た人間が7時間やそこらで「美」を理解できるというのが不自然です。そこまでつっこんでしまうと根本のテーマまで否定されてしまいます。
 文学上の比喩なんだから重箱の隅を突っつくようなあらさがしをする必要はないと思われる向きもあるでしょうが、それならば障害を比喩として使うことに倫理的問題がないのかも問われてしまいます。作者の障害を描くことに対する姿勢が安易すぎるのではないかという疑いが持たれてしまいます。