「たぬきのイソップ 」(小沢正)

たぬきのイソップ (カラー版創作えばなし (8))

たぬきのイソップ (カラー版創作えばなし (8))

 「わたし」がたぬきに童話を聞かされるという設定の本です。話が終わるごとにたぬきがいちいち見当違いにみえる「お話の眼目」を解説してくれるのはテーマ偏重の読みを強いる国語教育に対する皮肉でしょうか。小沢正らしい人を不安にさせる物語がつまっています。
 第一話の「こぶたとうさぎのハイキング」は、道に迷ったこぶたとうさぎが地図を見て恐ろしい妄想を繰り広げるお話です。今まで来た道と地図を照らし合わせると、自分たちは向こうの森の中にいることになってしまいました。ところがふたりは地図の見方が間違っていたのだとは思わずに、自分たちは森の中で居眠りをしていて、今ここにいるふたりは夢の中の登場人物なのだとトンデモ解釈を展開します。推奨はできませんけど、これは現実と情報の乖離の処理するひとつの方法ではあります。
 第二話「こぶたとばくだんこぶた」では隣におおかみが引っ越してくることを知った五匹のこぶたが、自衛のためにきつねにばくだんを搭載したこぶたのロボットをつくってもらいます。ばくだんこぶたはおおかみがかみつくと爆発するようにセットされ、こぶたたちはおおかみのもとに彼を差し向けます。ところがおおかみはばくだんこぶたを手厚く歓迎し、ばくだんこぶたはおおかみはいいおおかみだったとの報告を持って帰還します。事件が起こったのはその後。こぶたたちが輪になって喜んでいるうちにどれがばくだんこぶただったのかがわからなくなってしまいました。こぶたたちは自分が実はばくだんこぶたで、うかつに刺激をくわえると爆発してしまうかもしれないという恐怖と共に生きていくことになります。アイデンティティがこうも簡単に揺らいでしまうのが面白いです。それ以前に「ばくだんこぶた」という言葉の響きだけで笑えてしまいますが。