「ロバになったトム」(アン・ロレンス)

ロバになったトム

ロバになったトム

 ロンドンにいって成功することを夢見て、家の農業の仕事をさぼってばかりいるトムは、妖精から二つの贈り物を授かりました。ひとつは「夜明けとともに始めた仕事は、日が暮れるまで終わることはない」という言葉。早朝から菜園の石を取り除く作業をすると後から後から石がわいて出てきて、トムはこの言葉の意味を知ります。彼はこの贈り物を怠け者への罰だと解釈してしまいます。もうひとつは、「おまえは、将来の妻が思ったとおりのものになるでしょう」。ロンドンに向かって旅立ったトムは、知り合った少女ジェニファーに「あなたって、まぬけなロバね!」と罵倒されてロバに変身してしまいました。ここであっさり主役が交代し、物語はロバを連れてロンドンに向かうジェニファーのサクセスストーリーになります。16世紀、なんの後ろ盾もない女性が身を立てるのは難しい時代が舞台ですが、自分の才覚を頼りに困難に立ち向かっていくジェニファーの姿は爽快です。
 ジェニファーは都会に出て商才が開花し、トムの第一の贈り物の有効な使い方も発見しどんどん地位と富を築いていきます。トムはロバなので口答えをすることもできず、ジェニファーに従って次第に怠け癖も改善されていきます。女性側から見れば、男はこういうふうに教育していけばいいというお手本になるお話、男性側から見れば結婚したら人生は終わりだということがわかるお話です。