「ユリアと魔法の都」(辻邦生)

ユリアと魔法の都

ユリアと魔法の都

 1971年刊行。辻邦生唯一の児童文学作品です。
 夏休みに祖父に会うために一人で汽車に乗って旅に出た少年ユリアの物語。ユリアの乗っていた汽車は古びた汽車だったはずなのですが、いつの間にか近代的な車両に変容していました。ユリアは予定外に、大人がいなくて子供が働いている不思議な町で降ろされてしまいます。
 子供だけの世界は一見理想社会に見えるのですが、ユリアは天候や時間までも好き勝手に操る市議会のやり方などに疑問を感じ、この世界の欠陥を探りはじめます。市議会からつけねらわれる中、この世界で少数派の遊んでいる子供や大人の小説家の助力を得、次第に町の秘密に迫っていくミステリアスな物語が展開されます。
 なんといっても矛盾に満ちた都が必然的に崩壊するラストが圧巻です。裸の子供の大群がパイプオルガンの演奏に合わせて合唱する中、警官隊の銃撃を受けて倒れる主人公。美しくも切ない、児童文学史上屈指の名シーンといえましょう。