「酸素は鏡に映らない」(上遠野浩平)

酸素は鏡に映らない (ミステリーランド)

酸素は鏡に映らない (ミステリーランド)

 ミステリーランド第12回配本。小学五年生の高坂健輔と姉の絵里香、元特撮ヒーロー俳優の池ヶ谷守雄の三人は、公園で「世界の支配者」を名乗る男柊にエンペロイド金貨を渡され、「もしも……力が欲しいのなら……それを探してみるといい」とそそのかされます。三人は金貨に関係すると目される美術館に赴きますが、そこが武装した強盗団に占拠されてしまい……。
 レーベルにあわせて少しは作風を変えてくるのかと思ったら、拍子抜けするくらいいつもの上遠野節でした。時折挿入される健輔と柊の意味ありげな対話や、特撮番組のあらすじを絶妙に本筋にリンクさせる演出は、上遠野ファンを満足させるはずです。
 しかし小学生読者に対する配慮がないわけではありません。物語の大筋はダイ・ハード状況での宝探しというわかりやすいものですし、あえて登場人物に特殊能力を与えず事件には現実の範囲内で解決を与えているところにも心配りを感じます。この一冊で健輔がこのいかんともしがたい世界で生きていくための知恵を手に入れる物語としては完結していますから、小学生向けの読み物としてもまっとうに仕上がっています。
 もちろんこの作品も他の上遠野作品とリンクしているので、これが初上遠野になるであろう小学生読者にとって不親切設計であることは確かです。でも、これをはじめに読んだ小学生が数年後に「ブギーポップ」に辿り着いたら、それはそれで楽しい再会になるのではないかと思います。