「魔使いの弟子」(ジョゼフ・ディレイニー)

魔使いの弟子 (sogen bookland)

魔使いの弟子 (sogen bookland)

 「七番目の息子の七番目の息子」として生まれたトムが母親のすすめに従って魔使いに弟子入りするお話。魔使いとは魔物や魔女と戦って人々を守る職業です。魔使いは強力な魔法が使えるわけでなく、継承された知恵と技術を武器に仕事をするのが特徴です。
 そういうわけで魔使いは実は無力なので、爽快な戦闘シーンなどはなく、恐ろしい魔物に追いつめられていくホラーチックな物語になります。トムは魔使いの戒めを破り、「とんがった靴をはいた女の子」に関わってしまったことから、封印された魔女の復活に手を貸してしまうことになります。ピンチのときは具合よく師の魔使いが出かけていて、トムは孤独な戦いを強いられます。基本的な物語のつくりはオーソドックスで、安定した読み応えが保証されています。
 この物語はホラーとしてだけでなく恋愛小説としても読めるでしょう。相手役は「とんがった靴をはいた女の子」アリスです。彼女はトムを何度もだましてひどい目にあわせた、本心の見えにくいキャラクターです。少年からみたの少女の「わからなさ」を体現しているところが彼女の魅力です。
 しかし本作で最も強烈な存在感を放っているのはトムの母親です。彼女は知恵も力も魔使いと同等かそれ以上に持っているようで、トムは誰よりも母親を崇拝しています。トムは魔使いより母親を頼りにしていますから、本作の徒弟物語としての側面は破壊されかねません。アリスとの恋愛小説としてみても、トムの極端なマザコンぶりは障害になりそうです。この人がこの先どのように物語に絡むのか気になります。まあ、12歳というトムの年齢を考えれば、この程度のマザコンは異常というほどではありませんけど。
 シリーズは本国では三巻まで刊行されています。先の楽しみなシリーズになりそうです。
 ただし、「魔使い」という訳語が適切であったかについては疑問が残ります。意味不明な上にゴロが悪いです。