「夏時間」(奥田継夫)

 1976年偕成社より刊行。新制中学第一期生を主人公とした奥田継夫の「学園三部作」の第3部です。レッドパージの余波で共産党員でもないのに教職を追われようとしている風木先生を守ろうと生徒たちが奮闘するお話。先生を追い出す話だった第2部の「中学時代」とは180度趣向が変えられてます。
 学校が民主主義の実験場として設定され、民主主義という言葉に憧れを持てた時代の熱気が伝わってきます。生徒たちはまだるっこしいまでに話し合いを繰り返し、民主主義の基本が適正な手続きを取ることであることが示されます。
 ラストシーンは卒業式で卒業生総代の半身正が答辞を読む場面です。「わたしたちに身をもって民主主義を教えてくださった」校長や警察、軍人らに感謝を捧げる言葉に皮肉がきいていてよいです。現在では卒業式そのものが身をもって民主主義を教えてくれる場になっているので、文部科学省教育委員会には感謝しないといけませんね。