「夕暮れのマグノリア」(安東みきえ)

夕暮れのマグノリア

夕暮れのマグノリア

人間は石油になんてなれない。たとえ、なれたとしたってだめなんだ。死んだあとにだれかをあたためたからって、今していることがチャラになんてならない。生まれてきた意味なんて、自分で見つけなきゃずるいんだ。(p61)

 4月に出た「頭のうちどころが悪かった熊の話」がずいぶん売れているようですね。発売当初は書店では見られなかったのに、今は平台に置かれています。全国紙に小泉今日子の書評が掲載されたのが売れはじめたきっかけだそうです。キョンキョン恐るべし。
 さて、「熊」に続いて5月も安東みきえの新刊が発売されました。こちらも大変読み応えのある良作でした。
 中学一年生の灯子の1年間の日常を追った連作短編集です。いじめや友達がくっついたり離れたりで大忙しの殺伐とした学校生活の描写には容赦がありません。一方で、日常から連続している異界に容易に引き込まれてしまう灯子の感受性の強さにも目を奪われます。
 ただし、目に見えないものの価値を訴えるのはかまわないのですが、無批判にオカルトに傾斜しすぎているのは問題です。灯子の道徳性が誰かに監視されているという妄想によって内面化されているのも病的に感じられました。少なくとも、まだきちんとした科学教育を受けていない中学生に「理科でならったことは答えにならない。ほんとうに肝心なことはわからない」なんてセリフを言わせるのはいただけません。