「トメック さかさま川の水1」(ジャン=クロード・ムルルヴァ)

トメック―さかさま川の水〈1〉 (世界傑作童話シリーズ)

トメック―さかさま川の水〈1〉 (世界傑作童話シリーズ)

 その流れの水を飲むと不死になるといわれる「さかさま川」をめぐる少年と少女の物語「さかさま川の水」二部作の第一部です。これは傑作です。
 主人公の少年トメックは若いながら一人でよろずやを切り盛りしていました。そこへ客としてやってきた少女ハンナに彼は一目惚れしてしまいます。ハンナが求めているものが不死の霊薬クジャー川の水であることを知ったトメックは彼女の後を追って旅立ちます。知り合ったばかりの少女のために惜しげもなく今までの生活を捨ててしまう少年のわけのわからない情熱になぜだか共感できてしまいます。
 少年を待ち受けていたのは入り込んだ人が誰からも忘れ去られてしまうという森、訪れた旅人が永い眠りについてしまう村、不可思議な風物と奇矯な人物たちに彩られた先の見えない旅路でした。
 語り口は軽妙ながら物語は重厚です。ぜひロングセラーになってもらいたいです。