「魔の森はすぐそこに…」(田村理江)

魔の森はすぐそこに… (偕成社コレクション)

魔の森はすぐそこに… (偕成社コレクション)

 道雄の家族は新宿から田舎町に引っ越してきました。道雄の弟の飛雄は軽く配慮を必要とする子供で、新しい環境になじめるか心配されていました。しかし田舎の空気があったのか飛雄の状態は改善し、素晴らしい絵を描いて総理大臣賞にまで選ばれるようになりました。いままで自分は飛雄より優秀だと思っていた道雄は、はじめてはげしい嫉妬を弟に抱くことになります。
 飛雄は引っ越してきてから、家の近くにある森の中で遊んでいるのだと報告するようになりました。森の中には町があって、飛雄の家まであるのだというのです。道雄ははじめこれを飛雄の空想だと思っていましたが、やがてそこは魔物のつくった世界だと確信するようになります。嫉妬に駆られた道雄は、飛雄を森の中の魔物の世界に置き去りにしようとたくらみます。
 兄弟間の嫉妬は、卑近すぎるゆえに正面からテーマにされることはあまりありません。弟を捨てるか助けるか、道雄の気が数ページごとに変わってしまうのには辟易してしまいますが、この感情の波のはげしさにはリアリティがあります。迫力を持って難しいテーマに挑んでいる作品だと思います。
 日本の片田舎に洋風の異界を設定しているのもミスマッチで面白いです。ただし田舎に珍しい金髪の女性がふたり出ていることが別に伏線にもなんにもなっていないようなのが気にかかりました。