「しずくの首飾り」(ジョーン・エイキン)

しずくの首飾り (岩波ものがたりの本)

しずくの首飾り (岩波ものがたりの本)

 エイキンの短編集です。エイキンはすばらしい。
 表題作は名付け親の北風からしずくの首飾りをもらった女の子ローラのお話です。ローラは誕生日が来るたびに首飾りつける雨粒をもらえます。そして雨粒が増えるたびに、天候を操る魔法の力を得ることができるのです。土砂降りの雨でも濡れず、雷もよけてとおり、どんな広い海でも泳げて、鼻をかむだけで雨を降らせることができる。この魔法の魅力的なことこの上ありません。
 しずくの首飾りはいじわるなクラスメイトに奪われて途方もなく遠くまで旅をすることになりますが、愉快な冒険の末取り戻されます。魔法の宝物より大事なものは何かというメッセージがすとんと落ちてきます。
 「空のかけらをいれてやいたパイ」も奇想にあふれた傑作です。偶然空のかたすみを混入してしまったアップルパイがおじいさんとおばあさんをのせて空に浮かび上がるお話。アップルパイの上にどんどん珍客が増えていく展開が楽しいです。
 「三人の旅人たち」は国語の教科書に載っているので、おそらく日本で最も読まれているエイキン作品になるでしょう。「さばく」駅ではたらく信号がかりのスミスさん、荷物がかりのジョーンズさん、きっぷ売りのブラウンさんがそれぞれ休暇を取って旅に出て、仲間にみやげ話を聞かせるお話。まったく客のこない「さばく」駅で、仲間の旅立ちのために待ちに待ったお仕事をこなす三人の描写が実に生き生きとしていて楽しげです。そして最後の旅人ブラウンさんの発見したもののすばらしいこと。「さばく」駅は児童文学に登場する架空の土地の中で一番いってみたい場所です。