「ジジ きみと歩いた」(宮下恵茉)

ジジきみと歩いた (学研の新・創作シリーズ)

ジジきみと歩いた (学研の新・創作シリーズ)

 男子4人組が河原で拾った犬を飼うお話です。じじむさいから「ジジ」という名前を付けられたこの犬は「とことん、自由な犬」で、わざわざとりにくい排水溝の網の上で粗相をしたり、よその犬小屋に上がり込んだりと、飼い主を困らせてくれます。このジジの自由さが楽しく、大きな見所になっています。
 最大の見所はやはり人間が描けている点でしょう。何気ない日常の場面で小学生なりの誠実さ、薄情さがリアルに描かれており、しみじみとした感動が胸に迫ってきます。
 ややネタバレになってしまいますが、もうひとつ注目すべきところはDVの扱いです。この物語ではDVの解決を冷静にしかるべき機関にゆだねています。安いドラマだと情でなんとかしようとしたがるところですが、それは現実的ではありません。こういう問題は情を介在させると泥沼にはまるだけです。ですからこの作品でのDVへの対応は非常に正しいものだといえます。
 第15回小川未明文学賞受賞作です。ユーモアをまじえつつ骨太の人物描写を実現している大変読み応えのある作品でした。