「レネット 黄金の林檎」(名木田恵子)

レネット―金色の林檎

レネット―金色の林檎

 チェルノブイリ原発事故で被爆した少年のホームステイを受け容れた北海道の一家徳光家の物語です。長男を亡くした一家には暗い影が落ちていました。ホームステイ事業への参加にはその傷を乗り越えようという願いも込められていました。一人娘の海歌は被爆者の少年セリョージャのあまりの純粋さに反発を覚えつつも、やがて彼に惹かれていきます。
 児童文芸家協会賞や青少年読書感想文コンクールの課題図書などのいらん看板がついていますが、これはいつもどおりの名木田恵子作品ですから、よけいな身構えは必要ありません。チェルノブイリという深刻な題材を扱いながら、彼女はぬけぬけと初恋と家族崩壊のメロドラマを紡ぎ上げています。
 本作においてチェルノブイリは、異国の少年の非現実的な美しさを際だたせるための設定としてのみ機能しています。本来なら非難されるべきところですが、名木田作品はそういうファンタジーだからとあきらめるしかありません。北海道の自然を背景に現実感のない美少年を駒として繰り広げられるこのメロドラマは、間違いなく一級品です。