「やわらかい手」(花岡大学)

やわらかい手

やわらかい手

 この作品集で花岡大学をはじめて知ったときの衝撃は忘れられません。人間の業の深さをどうしてこんなに美しく描けるのか。残酷さ、グロテスクさ、美しさという点で、この人の作品は飛び抜けています。児童文学の本道とは一線を画しています。でも、キワモノという文脈で語られることはありません。文学史上の位置づけに非常に悩んでしまう作家です。それでも、こんなに残酷な話ばかりなにか救いが感じられててしまうのが不思議です。
 少女が父親の首つり自殺の現場を目撃する「黒い門」。空襲から逃げるときに、妹の手をふりほどいてしまった少年の罪と赦しの物語「やわらかい手」。母親の愛情を一心に受ける弟への嫉妬から、ついに殺人に至ってしまう「水蜜桃」。どれも苦く美しい話ですが、とりわけ印象に残ったのは冒頭に収録されている「鈴の話」でした。
 継母に虐待されている少女ユキが自殺して水死体になるまでが、ユキにほのかな思いを寄せる少年純也の目を通して語られます。虐待の描写には背筋が凍ります。継母はかみきり虫のはさみを使って、ユキの長く黒光りのする髪の毛を切ります。もちろんそんなものでうまく髪が切れるわけがありませんが、それでも継母は執拗に作業を続けます。なんとも恐ろしい情景です。
 しかし実はこの虐待は現実に行われたものではありませんでした。これは純也の妄想の中の出来事だったのです。ここがこの作品の一筋縄でいかない点です。こうなったら好きな女の子が虐待される場面を想像する純也の倒錯趣味の方も問題にしなくてはなりません。どうしたもんでしょうね?