「少女海賊ユーリ10 未来へのつばさ」(みおちづる)

少女海賊ユーリ 未来へのつばさ (フォア文庫)

少女海賊ユーリ 未来へのつばさ (フォア文庫)

 記憶を失いボルドの手に落ちてしまったユーリ。もちろんユーラスティア号のみんながユーリを見捨てるわけがありません。今までの冒険で出会った人々も集い、物語は大団円に向かいます。
 このシリーズは10巻かけて人類の未来に希望を積みあげて来たのだと思います。人間は強大な力に頼らなくとも幸福と平和をつくりだすことができる。このユーリの主張はそれまで経てきた物語に支えられて説得力を確保しています。
 ただし、希望を語るにはまず的確な現状分析が必要です。その点でこのシリーズが「ナシスの塔の物語」に比べて弱いことは否定できません。「ナシスの塔」では普通の人々が欲望にとらわれて技術を盲信する様子が描かれていましたが、「ユーリ」では技術が悪を抱えていることは自明のこととされており、「ナシスの塔」以上に踏み込んだ分析はなされませんでした。また、悪役をいかにもな人物に設定したことも弱点になっています。現実に核技術(あとがきで時光石は核だと明言されているのであえてこの言葉を使います)を望んでいるのはボルドのような極端な人間ではありません。ごく普通の人々のはずです。
 テーマであったテクノロジーと人間の問題に対する踏み込みは「ナシスの塔」に比べればやや甘い印象は持たれます。しかし単体で見ればこのシリーズが成功作であることに疑いはないでしょう。血湧き肉躍る冒険物語を紡ぎ上げ、同時に人間への信頼をうたいあげた、非常にすがすがしい作品でした。さて、みおちづるは今度はどんな手を打ってくるのか。次の作品が待たれます。