「魔法少女マリリン 青い石の伝説」(村山早紀)

生まれてから十二年間、ずうっとあこがれの街だったんだ。お芝居にだって歌にだってでてくる街――古き都・アルシャン。王様の住む、おとぎ話の街。吟遊詩人や魔法使いや剣士や……そういう「物語的」な職業の人たちがたくさんすんでいる街。冒険者の都。

なんて、物語的なんだろう!あそこには王子さまとかお姫様が住んでいるのよね。本当に伝えがたりの世界なんだ、ここは。

 裕福な商家の娘ながら、冒険者志望で魔法学校に通っているマリリンが主人公。彼女は潜在能力はあるのですが、魔力の制御ができないため学校では落ちこぼれ扱いでした。自分の魔法が上達しないのは実戦を経験していないせいだと思ったマリリンは、夏休みを利用して冒険者ギルドに通い、本物の冒険をしようとたくらみます。
 「物語的」なもの、冒険に対する憧れに共感できます。そして楽しい「物語的」なものを煮詰めた結果、非常に既視感のある世界が構築されています。冒険者ギルドに通って戦士と僧侶と吟遊詩人の仲間を手に入れるって、RPGの世界じゃないですか。それもテレビゲームのRPGじゃなくてテーブルトークRPGです。村山早紀のサイトを確認したら本当に友達とやったTRPGが元になっているって書いてありますね。95年にこんなに先鋭的なエンタメが児童書として出ていたとは驚きです。
 マリリンはソーサラーとしての能力よりも血統のマーチャント技能のほうが高いのが愉快です。これをTRPGとしてみると、きっとマリリンは魔法の成功率が低いかわりに商人としての交渉の成功率は異常に高く、いつも無理な要求を通してしまうキャラクターなのでしょう。マリリン役のプレイヤーのニタニタ笑いとゲームマスターの困り顔がみえるようで楽しいです。