「12歳たちの伝説 3」(後藤竜二)

12歳たちの伝説〈3〉 (風の文学館2)

12歳たちの伝説〈3〉 (風の文学館2)

12歳たちの伝説〈3〉 (ピュアフル文庫)

12歳たちの伝説〈3〉 (ピュアフル文庫)

 豪快に学級崩壊している教室を描いたシリーズ「12歳たちの伝説」の第三巻。今回の主人公は親友だったはずのヤマちゃんと大ちゃんとの間にできた溝に悩む海口草平です。
 いつものようにふたりから掃除当番を押しつけられてひとり教室に残った草平は、誰もいないと思ってイチローのバッティングフォームのまねをしていました。ところが、この最高に恥ずかしい場面をみていた女子がいました。彼女はひとりで過激な学級新聞を作って騒動を起こしていた少女烏丸凜。恥ずかしくて逃げ出したい気分の草平の前で、彼女は意外な行動をとりました。
 彼女は黙って横浜の種田仁選手のがに股打法のまねをしたのです。ありえないくらいいい子です。だって数多い野球選手の中からよりによって種田を選ぶのですから、これで惚れない男子がいたらそのほうがおかしいです。烏丸凜はこの行動で草平の心をがっちりつかみ、新聞の編集委員に誘いをかけました。
 しかし学級新聞のテーマは学級内の暴力を糾弾するもので、結局はヤマちゃんを個人攻撃するものになってしまいました。草平は編集委員らの意見に違和感を覚え、編集会議を飛び出してしまいます。
 草平に対してそんなやつは友達じゃないから切り捨てなさいと大人の意見を言うのは簡単です。しかし、時として正論こそ人を追いつめてしまうこともあります。一面的な正しさを押しつけず、子供の心の揺れに丁寧に向かい合うこのシリーズの姿勢には頭が下がります。
 すでに新日本出版社版を読んでいるという方も、ピュアフル文庫版はチェックしておくべきです。11ページにわたる巻末の後藤竜二あさのあつこの対談は必見です。あまりにいい内容なので全文を引用したいくらいです。後藤竜二は小学生の生きづらさの根元を実に的確に分析しています。

「友達100人できるかな」という歌がありますが、友達はいっぱいいなくちゃいけないというコンプレックスを最初から植えつけられて、その上、いい子にならなきゃいけない、勉強しなくちゃいけない、さらには、容姿のコンプレックスまであったりして、小学校高学年の女の子は本当に大変ですよ。(p143)

 そして自らの創作姿勢をこう語っています。

学級のごたごたや問題は、「学力向上」に邪魔なだけのものとしてしまっている。そういう風潮に負けるわけにはいかないのです。「ごたごたこそ宝」をつらぬきたい。恋愛だって、友情だって、つねにごたごたしています。そこから逃げずになんとか問題を解決しようとしてジタバタしている思春期たちの姿を、もっともっとていねいに描き上げて語りあっていきたいですね。(p154)