「スリースターズ」(梨屋アリエ)

スリースターズ

スリースターズ

 タカノ綾のイラストが付いたきらびやかな装丁の本で、しかも2段組325ページ。ずいぶん気合いの入った本を出してくれました。講談社梨屋アリエの価値がわかってるじゃないですか。もう今年の野間児童文芸賞の筆頭候補はこれで構わないと思います。
 親からお金だけを与えられて育ち、死体写真のブログを運営している少女弥生。親からお勉強だけを強いられて育った優等生の水晶。親から何も与えられず、男と食べ物にしか興味のない少女愛弓。まるで接点の無かったはずの三人がネットを通じて知り合い、心中未遂を経てテロリストになる物語です。
 それぞれの子供の家庭環境やネットを介した集団自殺に少年犯罪という題材等、表面的なところだけをみればいかにも俗悪なマスメディアが好みそうな陳腐なネタにみえてしまいます。しかしそこは梨屋アリエ、登場人物にべったり寄り添わず、笑いものにするくらい徹底的に突き放すことで、それぞれの孤独、悲しみ、愚かしさ、そして痛々しさを緻密に描写することに成功しています。
 弥生は不器用な子で人間関係を作るのが苦手で、こんな具合に生きていました。

それでもなんとか友だちを作ろうと、留守宅に入って待ち伏せしたり、弱みを握って言うことをきかせたり、誘拐ごっこや万引きの手引きをして欲しい物を盗らせてやったりしていたら、宮入弥生とは遊んではいけない、と大人たちから禁止されるようになってしまった。(p22)

 彼女は能力がないにもかかわらず状況をコントロールしているかのように振る舞いたがるのが痛々しいです。心中計画(実際は死体写真を撮るために愛弓と水晶を殺害する計画)が頓挫する過程のばかばかしさといったらありません。
 水晶はおりこうさんでなまじ知識があるだけに手に負えません。テロ計画が始まると現実的かつ過激な立案をして弥生を焦らせます。知性と言動の幼さのギャップが笑いを誘い、三人組の中でも一番のギャグキャラになっています。
 愛弓に関しては、生育環境が悪かったからで片づけてしまいたくなりますが、梨屋アリエはそれを許しません。努力すれば必ず報われると能天気な演説をする水晶に「そういうの(置かれている状況が極端に悪い人)は、別です」と切り捨てる発言をさせることで、そんな考えの安易さを質しています。そういうところ梨屋アリエは誠実です。
 さて、それぞれのキャラクターを痛い痛いとけなしてきましたが、彼女たちを痛く感じるのはもちろん読者にも身に覚えがあるからです。彼女たちを笑うとそのトゲは全部読者にはね返ってきます。触れられたくないツボを的確にみつける梨屋アリエの眼力は見事としかいいようがありません。