「首なし地ぞうの宝」(那須正幹)

首なし地ぞうの宝 (新しい日本の童話シリーズ 18)

首なし地ぞうの宝 (新しい日本の童話シリーズ 18)

 那須正幹のデビュー作です。刊行は1972年。
 小学生三人組が暗号を手がかりに宝探しをするおはなし。三人組の物語であること、子供の世界で完結せず大人を巻き込んだスケールの大きな展開を見せること、デビュー作にしてズッコケ三人組の原型はすでに完成されていました。
 しかし、大人を巻き込むと言えば聞こえはいいですが、実態は子供たちの手柄が大人に引っさらわれただけとも言えます。さらに思いっきりネタをばらすと、実は財宝を巡る物語はある人物によって捏造されたものであるという説が終盤に登場します。その説にしてもチョイ役が唐突に披露するだけなので、真偽のほどは定かではありません。
 手柄が大人に奪われた点と、財宝伝説そのものが捏造だった点、この物語は子供たちににとっては二重に茶番だったといえます。そのため子供が莫大な財宝を発見するという楽しげなストーリーにあわず、得られるカタルシスは微少になっています。このあたりに那須正幹の曲者っぷりがあらわれれていると思います。
 宝探し自体で得られなかったカタルシスは、子供たちが選択した財宝の使い方によってあがなわれます。子供たちのとった行動は茶番になってしまった冒険を自分たちの手に取り戻すための試みになっています。