「オチケン!」（大倉崇裕）

オチケン! (ミステリーYA!)

　なりゆきで大学の落語研究会に入れられてしまった越智健一青年の物語。落研は会員が健一を含めて三人しかいない弱小サークルなのに部室を持っていました。そのため部室を持たない複数のサークルが、隙あらば落研の部室を奪おうと虎視眈々と目を光らせていました。二人の先輩は頼りになるのかならないのかはっきりせず、健一は部室を守るために苦労させられることになります。
　舞台は目白にある良家の子女が多く在籍していることで有名な大学です。そんな大学の学生たちが、部室のような他人からみればつまらない事でこそこそと陰謀をめぐらせているのが愉快です。ところがそれに立ち向かう落研のメンバーは、まるで落語の登場人物のように抜けているように見えます。このアンバランスさがいい味を出しています。
　大倉崇裕の本で既読なのは「三人目の幽霊」だけでしたが、落語をネタにした作品をよく書く作家だという評判は聞いていました。落語初心者の主人公がまず「寿限無」を学んでいくところから物語が始まるので、初心者向けの内容かと思いきや大間違い。事件を解く鍵になる落語蘊蓄のレベルは非常に高度でした。おそらくこの作品は、落語蘊蓄がまず先にあり、それを語りたいがために事件をこしらえるという順番でつくられているのでしょう。巻末のエッセイではあの「鰍沢」がメジャーな落語という位置で紹介されているくらいなので、ついていくのが大変でした。大倉崇裕の落語に対する愛情の深さ、知識の豊かさに感服させられました。彼の他の作品も読んでみようと思います