「ズッコケ中年三人組age42」(那須正幹)

ズッコケ中年三人組age42

ズッコケ中年三人組age42

 「ズッコケ中年三人組」第三巻。今回のテーマはいじめです。
 被害に遭うのは中学校に上がったばかりのモーちゃんの娘です。娘の担任がやっかいな人物でした。校長の覚えもめでたい一見優秀な先生なのですが、自分のクラスにいじめがあることを認めようとせず、隠蔽工作までしでかしてくれます。モーちゃんは教員をしているハカセに相談し、問題の解決法を模索します。
 いじめの構造の複雑さを見据えながら、いじめへの対処法を具体的に示している点などさすがに手堅いです。それでいながら、いじめの解決の重要なポイントは人脈と政治力であるというみもふたもない現実をありのままに描いているところも那須正幹らしいです。ただし、本筋にあまり関係ないエピソードに時間を割いてしまったため、単独の作品としてみるとやや物足りない印象は受けました。
 しかしこの脇道のエピソード、「age42」単体としての完成度を多少下げてはいますが、「ズッコケ中年三人組」シリーズ全体の今後を見据えると無視できないポイントになりそうです。
 その脇道とは、「ズッコケ妖怪大図鑑」で化けダヌキを封印した狛犬が工事のため移動されてしまうというエピソードです。三人組はひそかにタヌキが復活するのではないかという危惧を抱いていました。ところがモーちゃんの姉の証言で、あの出来事は錯覚だったかもしれないという方向に流れていきます。

 とはいえ、あんなことが現実に起こるものかどうか。この歳になると、どうしても常識というやつが邪魔してしまう。タヌキがひとを化かしたりするわけがないし、大昔の妖怪がよみがえるなどというのは、子どもだましのアニメの世界だ。少なくとも現実世界では起こることではない。
 と、すると、ハチベエが体験したのは、子ども時代特有の幻覚かなにかだったのだろうか。それを三十年の歳月が、あたかも実体験として記憶させてしまったのか。(p241)

 シリーズ化してしまった「中年三人組」には避けて通ることのできない課題があります。それは、一巻ごとにリセットされていたはずの「ズッコケ」シリーズ全五十巻の奇想天外な事件にどうやって矛盾のない説明を与えるかという問題です。このくだりは作者がその問題をどう解決しようとしているのかを予想するための手がかりになりそうです。那須正幹は記憶の改変テーマを好んでおり、「ガラスのライオン」「ズッコケ三人組バック・トゥ・ザ・フューチャー」「六年目のクラス会」等の傑作をものしています。「中年三人組」もこの方向に落ち着くのでしょうか。