「となりのウチナーンチュ」(早見裕司)

となりのウチナーンチュ

となりのウチナーンチュ

 精神を病んだニート少女がひたすら幻覚に悩まされる陰惨な話と紹介してもあながち嘘とはいえまい。
 沖縄を舞台にしたゆるめのホラー小説です。主人公は15歳の少女彩華。彼女は家に金がないため高校に行くこともできず、限りなく無職に近いフリーライターの父親に苦労させられながら日々生活していました。ある日彼女は蛙の置物に「おはよう」と声をかけられます。
 池上永一の小説と「ちゅらさん」くらいでしか沖縄を知らないわたしは、これはきっと彩華がユタとしての才能を開花させる展開になるに違いないと予想しましたが、ここで見事に作者にだまされてしまいました。彼女は自分が病気になったと判断し、神経科の病院に行くことを決意します。ちょっと幻聴を聞いたくらいですぐ行動を起こす彼女の判断力はなかなかのものです。彼女はタウンページで病院を探しながらこんな手厳しい意見を披露します。

沖縄が癒しの島だったら神経科なんかいらないはずだが、タウンページで調べたら、家の近所だけでも三件あった。神経科は、精神科と同じものであるらしい。つまり、それだけ心の病気になる人がいる、ということだ。癒されていないではないか。(p16)

 つまり作者は、本土の人間が沖縄に対して漠然と抱いているイメージをいったん破壊してから物語を紡ごうとしているのです。
 さて、このあと彩華のお隣に「ちゅらさん」に騙された父娘が東京から移住してきます。ついでに離婚した執念深い母親の生き霊もやってきてひと騒動起こります。
 登場人物はダメ人間ばかりで、ちょっとダウナー系のまったりした空間を作り上げています。ユーモラスで楽しい本でした。