「二死満塁」(砂田弘)

二死満塁 (こども文学館 1)

二死満塁 (こども文学館 1)

 1977年ポプラ社より刊行。少年野球のスター選手チビ六が思わぬ事件に巻き込まれるお話です。娯楽性が高く、読書感想文コンクールの課題図書に選ばれてもいるので、おそらく砂田作品の中でもっとも読まれてる部類に入るでしょう。
 砂田弘といえば枕詞のように「社会派」という言葉がつきまとってきますが、この作品もただのスポーツものだと思っていると足下をすくわれます。実は少年野球は賭博のネタにされていて、地元暴力団の資金源になっているという妙に生臭い話になってしまいます。主人公のチビ六は不良少年に借金をしてしまったために、野球の試合で八百長をさせられてしまいます。そんな時に彼は町の有力者がひき逃げをする場面を目撃してしまいます。チビ六は八百長を断るためにひき逃げの情報を不良少年に売ってしまい、また話がややこしくなります。
 この作品のおもしろさは、チビ六が善悪の両面にブレまくるところにあります。彼は試合で不正を働くことに罪悪感を抱く一方で、自分の判断でひき逃げ犯人の家に脅迫電話をかけてみたりします。作品世界に絶対的な正義は存在しません。
 事件の幕の引き方も勧善懲悪となりません。ひき逃げの被害者と加害者の子供が少年野球のチームメイトだったため、人間関係のいざこざを避けるために被害者と加害者が共謀して事件を隠蔽してしまいます。はっきりしなくて気持ち悪い結末ですが、そこにリアリティがあっておもしろいです。