「シュトッフェルの飛行船」(エーリカ・マン)

シュトッフェルの飛行船 (岩波少年文庫)

シュトッフェルの飛行船 (岩波少年文庫)

 トーマス・マンの娘エーリカ・マンの児童文学作品です。ドイツの少年シュトッフェルが貧しい両親を助けようと、飛行船に密航してアメリカで成功したおじさんに会いに行こうとするお話です。
 物語の展開は非常にゆったりしているのですが、これが不思議とおもしろかったです。天沼春樹の解説にはこのように記されています。

シュトッフェルの物語も、スピーディで展開がはやい現代のお話とはちがい、まことにゆるやかで、のんびりした時間を体験させてくれます。年齢にはかかわりなく、こんなゆったりと、のどかな時間のすばらしさをみんなどこかで求めているような気がします。そののんびりさかげんと、訳者の若松宣子さんの、天然のものらしい文体とがぴったりあっているような気がします。それは、すなわち飛行船的時間なのだと思います。(p206)

 「飛行船的時間」とはうまいことをいったもので、こうした作品を読むと物語のおもしろさを保証するのは速度ではないことをあらためて認識させられます。そしてこの「飛行船的時間」を経てたどり着くニューヨークが輝かしい夢の都にみえてしまうのも、また物語の偉大な力のなせるわざなのでしょう
 すでに触れましたが、解説は日本ツェッペリン協会会長でもある天沼春樹です。魂のおもむくままに飛行船蘊蓄を語ってくれています。飛行船愛にあふれたこの解説を読んで、ひさしぶりに彼の「飛行船帝国」が読みたくなってしまいました。「シュトッフェルの飛行船」とはだいぶテイストの違う作品なんですけど。