「たそがれ団地物語 ふたご桜のひみつ」(たからしげる)

たそがれ団地物語 ふたご桜のひみつ (物語の王国)

たそがれ団地物語 ふたご桜のひみつ (物語の王国)

 いつのころからか団地はノスタルジーの対象や衰退社会の象徴にされるようになってしまいました。久保寺健彦の団地小説はまさにそうですし、昨年話題になった原武史の「滝山コミューン一九七四」にもそういう要素がなくもない、新書ではそのものずばり「団地が死んでいく」というタイトルの本も出ています。たからしげるの新作も黄昏時を迎えた団地を舞台にしています。
 主人公は仙台から都心のマンションに引っ越してきた少年優人。マンションの隣には古びた団地がありました。なぜか団地に惹かれるものを感じた優人は、団地の中に入り込み団地の過去の光景を幻視します。そして団地にある咲かない桜を巡る事件に関わることになります。
 主人公を団地の外部の人間にすることで団地の終焉を不可避なものにしているところが巧妙です。