2008年の児童書

 昨年に比べると読書量が大幅に落ちてしまいましたが、思いつくままに今年の総括を書いてみます。取りこぼしが多いと思いますので、これだけは読んでおけというのがありましたらご教示いただけるとうれしいです。

ファンタジー

 ファンタジーでは、なんといっても小森香折の「十三月城へ エゼル記」が飛び抜けていました。若者が暴君を倒すという単純なストーリーながら、あらゆるファンタジーの楽しみが詰め込まれている贅沢な逸品です。感想はこちら。
 シリーズものでは「天山の巫女ソニン」が、いい具合に盛り上がってきました。

十三月城へ エゼル記

十三月城へ エゼル記

天山の巫女ソニン(4) 夢の白鷺

天山の巫女ソニン(4) 夢の白鷺

SF

 このブログでは毎度毎度児童文学界のSF氷河期を嘆いていますが、今年も児童書棚にめぼしいSFが並ぶことはありませんでした。しかし小学生が読むのにいいSFが出ていないわけではありません。では、小学生向けの良質なSFはどこにあるのかというと、児童書棚ではなくノベルス棚にあるのです。たとえば岩本隆雄(祝!再再デビュー)の「夏休みは、銀河!」や、「電脳コイル」のノヴェライズなどです。児童書の出版社がこのあたりに目配りできれば状況は変わると思うのですが……。

夏休みは、銀河! 上 (朝日ノベルズ)

夏休みは、銀河! 上 (朝日ノベルズ)

電脳コイル〈7〉 (トクマ・ノベルズEdge)

電脳コイル〈7〉 (トクマ・ノベルズEdge)

ホラー

 今年最高に怖かったのは、ひろのみずえの「瓜ふたつ」です。ドッベルゲンガーを素材として、気持ち悪く不条理に日常を破壊してくれました。

瓜ふたつ

瓜ふたつ

 

歴史もの

 疫病がはびこる平安京を舞台にした久保田香里の「氷石」や、葛飾北斎ゴッホの亡霊の邂逅を描いた甲田天の「時の扉をくぐり」など、地味ながら読み応えのある作品が出ていました。感想はこちらとこちら。

氷石 (くもんの児童文学)

氷石 (くもんの児童文学)

時の扉をくぐり

時の扉をくぐり

リアリズム

 梨屋アリエの連作短編集「夏の階段」が抜きん出ていました。梨屋アリエは思春期の痛々しさを巧みに描く作家ですが、この短編集でもその実力がいかんなく発揮されています。感想はこちら。
 やや低学年向けでは村中李衣の「はんぶんペペちゃん」が印象に残りました。父と娘のすれ違いという普遍的なテーマをしっとりと描き出した完成度の高い作品でした。

夏の階段 (teens’ best selections)

夏の階段 (teens’ best selections)

はんぶんペペちゃん (どうわのとびらシリーズ)

はんぶんペペちゃん (どうわのとびらシリーズ)

ノンフィクション

 「よりみちパン!セ」シリーズから出た西原理恵子の「この世でいちばん大事な「カネ」の話」は必読です。カネというみもふたもない切り口から人間の真実をえぐり出すこの本は、人生の教科書といっても過言ではありません。

この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)

この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)

 長くなったので、翻訳作品はまた次回。