「ウィロビー・チェースのオオカミ」(ジョーン・エイキン)

ウィロビー・チェースのオオカミ

ウィロビー・チェースのオオカミ

 エイキンの「ダイドーの冒険」シリーズ第一巻が、こだまともこによる新訳で再登場しました。王道も王道の爽快な冒険小説です。
 主人公は大きなお屋敷ウィロビー・チェースに暮らす少女ボニー。両親が療養のために家を空けることになり、その間遠い親戚のスカイラープがウィロビー・チェースを管理することになります。しかしスカイラープはひそかに屋敷を乗っ取ろうとたくらんでいて、忠実な使用人を勝手に首にしてボニーに残酷な振る舞いをするようになります。ボニーは従妹のシルヴィアとともにスカイラープに立ち向かいますが、事態はどんどん悪化していきます。
 舞台は19世紀のイギリスなのですが、英仏海峡トンネルができていて、そこを通って大陸から大量のオオカミがやってきているという独自の設定が付けられています。そのためイギリスの住民は常に死と隣り合わせで、銃などで武装して身を守ることも日常になっており、作品世界には大変な緊迫感が漂っています。しかし物語も後半になり悪党たちが残忍な本性を現してくると、オオカミの影は薄くなっていきます。やはり一番怖いのは人間だということでしょうか。