「子どもに本を買ってあげる前に読む本」「かならず成功する読みきかせの本」(赤木かん子)

子どもに本を買ってあげる前に読む本

子どもに本を買ってあげる前に読む本

 赤木かん子は、多くの人にとって不可視なものを見つけるのが得意です。この本で赤木かん子は、読書家を空想系とリアル系に分類することを試みています。空想系は小説をはじめとする嘘が書いてある本が好きな人、リアル系は図鑑など本当のことが書いてある本が好きな人だとしています。読書家の中では空想系の方が幅をきかせているので、リアル系の本を好む子供はインビジブルな存在になっていました。
 この区分けを採用するとケータイ小説が急激に多くの読者を獲得したことも説明できます。赤木かん子ケータイ小説は空想系ではなくリアル系の本だとしています。ケータイ小説が空想系の本だと解釈すると、急に百万単位の読者が登場した現象は奇怪に思えます。しかし赤木かん子の解釈に従うならば、いままでインビジブルだったリアル系の読者がケータイ小説の流行によって顕在化しただけで、不思議なことはなにもないということになります。
 この本のタイトルは「子どもに本を買ってあげる前に読む本」ですが、この本の読者が「子どもに本を買ってあげる前」に知りたいことと赤木かん子が「子どもに本を買ってあげる前」の大人に伝えたかったことは、大きくすれ違っています。赤木かん子が「はじめに」で述べていることを引用してみましょう。

 やっきになって子どもにいい本(とその人たちが思っている本)を薦めている大人たちをみて、心の底から仰天したのです。だって……、本のわかる人ならみんなそうでしょう? 本が好きな人なら……、ふつうは人に本を薦めたりしないものだよ。誰だって自分の好きなことの話を誰かにしたい……。でも、そういうことする人って普通好かれないよね?だからちゃんとした大人なら趣味じゃない、という人に薦めたりしないものでしょ。(p5〜6)

 いきなり子供に本を薦めるなといっているのですから、これから「子どもに本を買ってあげ」ようと思ってこの本を手に取った読者はとまどうはずです。しかし子供の側に立ってみればこの意見はごもっともです。趣味を押しつけられるのは誰だって嫌に決まっているのですから。さらに赤木かん子はこの後「大人と子どもは対等じゃない」と指摘しています。こういう風にみると、圧倒的に立場が上である大人が反論できない子供に一方的に趣味を押しつけるというひどい虐待が行われているようにみえます。こんな問題も、大人の側からみれば不可視です。赤木かん子がそんな問題に気づけるのは、徹底して子供の側に立とうとしているからなのでしょう。

かならず成功する読みきかせの本

かならず成功する読みきかせの本

 こちらの本にも、彼女の子供の側に立とうという姿勢がはっきり現れています。最後に載っている「読みきかせQ&A」が過激なのです。技術的な質問に対してはできないならやらなくていいと答え、子供に受けなかったらさっさと退散しろと言い放つなど、赤木かん子は質問者を突き放しているようにみえます。しかしこれも子供の側に立てばごもっともです。面白くない読みきかせにつきあうのは時間の無駄ですからね。