「ライトノベル研究序説」(一柳廣孝・久米依子/編著)

ライトノベル研究序説

ライトノベル研究序説

書店で初めて見た時は、表紙を見て「青弓社始まったな」と思っただけで通り過ぎてしまいました。とんでもない間違いでした。児童文学に興味のある方は、井上乃武の「ライトノベルと児童文学の「あいだ」――「主体性」の問題をめぐって」と大橋崇行の「〈読者〉としての〈ヤングアダルト〉――ライトノベルを〈教材〉にする」だけでも読んでおくべきでしょう。  
「〈読者〉としての〈ヤングアダルト〉」は、高校の教員が生徒60名を対象に行ったアンケートを元に読者論を試みた論考です。サンプル数が少なく、対象が知的レベルの高い生徒に偏っているためこの結果を直ちに一般化することはできません。が、高校生が「涼宮ハルヒの暴走」に低い評価を与え、「紅」に高評価を与えたという報告は注目に値します。ライトノベルに対して積極的な発言をするようなコアな読者と、実際の若い読者の認識の乖離が浮き彫りにされた結果となったようです。大橋崇行はこの結果について、「紅」の方が国語教育でなされるような読解をしやすいため*1だと分析しています。国語教育の影響力って意外に強いものだったんですね。
ライトノベルと児童文学の「あいだ」――「主体性」の問題をめぐって」は、「社会変革の意志(とその挫折)」という戦後児童文学の文脈にとらわれてエンターテインメント的なものを見逃してきた児童文学研究者を批判しつつ、新たな視点から那須正幹の2作品「屋根裏の遠い旅」「ぼくらは海へ」を読み解こうと試みています。「屋根裏の遠い旅」のパラレルワールド設定にライトノベル的な特質を見出し、「ぼくらは海へ」を児童文学とライトノベルの分岐点とする視点はユニークです。ぜひ井上乃武のもっとまとまった論考を読んでみたいです。

*1:心理描写の多さ、源氏物語のパロディとして解釈できる点など