「世界がぼくを笑っても」(笹生陽子)

世界がぼくを笑っても

世界がぼくを笑っても

笹生陽子復活!雑誌やアンソロジーでの作品発表はありましたが、単行本が出るのは2004年の「サンネンイチゴ」以来です。ちょっと長すぎる冬眠でしたね。しかし新作は期待を裏切らない出来でした。
ほどほどに荒れている中学校に、新任のダメ教師が赴任してくる話です。彼は始業式の挨拶で緊張のあまりぶっ倒れてしまい、しょっぱなから尋常でないダメっぷりをアピールしてしまいます。
そんな彼をクールに観察しているかに見える語り手の中学生、北村ハルトもいい具合のダメ人間です。ハルトの父親はギャンブル好きのダメ人間でした。ハルトは父親を見て学習しているはずなのに、自身もどう見ても怪しいおこづかいサイトに入れ込んでいます。ダメ人間をリアルに描き出す笹生陽子の技は錆び付いていません。
笹生陽子は現代のリアルな子供像をあぶり出すため、作中の小道具として新しいメディアを積極的に利用することで知られています。出世作「楽園の作り方」(2002年)では、メールを使った騙りが話題になりました。「ぼくは悪党になりたい」(2004年)には育成型の美少女ゲームにはまる少年が登場します。新作「世界がぼくを笑っても」には、重要な小道具としていわゆる「学校裏サイト」が登場します。作中では一般に広まっている「学校裏サイト」という蔑称は使用されず、「非公式HP」という中立的な表現がなされています。こうした細かい言葉の選択にも、笹生陽子の時代を見る感覚の鋭敏さがあらわれています。
そろそろメディアの使い方という面から笹生陽子を本格的に分析してみる必要がありそうです。次に笹生陽子が使うのは、Twitterか動画投稿サイトあたりでしょうか。