「IQ探偵ムー」1〜3巻(深沢美潮)

IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。 (カラフル文庫)

IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。 (カラフル文庫)

IQ探偵ムー 帰ってくる人形 (カラフル文庫)

IQ探偵ムー 帰ってくる人形 (カラフル文庫)

IQ探偵ムー アリバイを探せ! (カラフル文庫)

IQ探偵ムー アリバイを探せ! (カラフル文庫)

夏休みなので、今まで気になりつつも手を出せなかったシリーズを消化しようと思っています。「IQ探偵ムー」はまだ読んでいませんでした。言い訳をさせてください。いくら評判が良くても、既刊が多いのはなかなか読むきっかけをつかめないじゃないですか。いや、やっぱり言い訳はやめておきます。今までこのシリーズを読んでなかったのはわたしの選書眼が未熟だったからです。ごめんなさい。
春の嵐とともに転校してきた小学5年の少女探偵茜崎夢羽の活躍が、主にクラスメイトになった少年元の視点から語られるシリーズです。
まず特筆すべきは探偵役の魅力です。小学生のルーチンな日常の中で、外部を感じさせてくれる存在は転校生くらいしかいません。それが神秘的な美少女だったら最高じゃないですか。授業中は居眠りしてばかりなのに頭はよくて、怪しい洋館に住んでいる謎だらけの美少女。夢羽の存在こそがシリーズ最大の謎になっています。
もうひとつの魅力は、小学生の生活実感からほどよい距離の事件が起こるところです。第1巻収録の1話は教室の裏に掲示された児童の絵がなくなる話。2話は町中の標識に変な落書きが貼り付けられる事件。第2巻収録の3話は捨てた人形が家に帰ってくるホラーテイストの話。続く4話は公園に突如として大量のブランコが出現する事件。第3巻は近所のお兄さんがひったくりの疑いをかけられ、濡れ衣をはらす話です。日常から手の届きそうな範囲で、いい具合に日常から逸脱できる素材が選ばれています。
わたしのようなミステリファンになると、館とか孤島とかいう言葉が出てくるだけで嬉しくなってしまう習性になっていて、ついつい普通の人は密室なんて言葉でときめいたりしないということを忘れがちになってしまいます。ましてやこの作品の場合、相手は小学生です。広い層の読者を楽しませるためには、このくらいほどよく日常性を保った安心感のある作品が適切です。そういう意味で深沢美潮の素材の選び方はうまいと感じます。もちろん一方で青い鳥文庫の「夢水清志郎」や「宵宮月乃」のような本格英才教育のための作品も必要ですが、そこはうまく棲みわければいいでしょう。