「ぼくはおじさん アイム・アン・アンクル」(山下奈美)

ぼくはおじさん―アイム・アン・アンクル (文学の散歩道)

ぼくはおじさん―アイム・アン・アンクル (文学の散歩道)

タイトルの通り、小学5年生の少年が年の離れた兄の妻が妊娠したことで、おじさんになる話です。このあらすじからカツオくん的なものと思って気楽に読んでると痛い目にあいます。この話はタイトルからは予想できない怖い話でした。
主人公は武道具店の息子の大志。父親と兄は剣道の道場の先生もしていて、家族で武道に親しんでいました。大志は剣道自体は嫌いではありませんでしたが、自分を厳しく指導する兄は憎んでいました。
ここで大志の家庭環境を説明しておきます。大志のロールモデルとなるべき父と兄は、家庭人としては失格な人間として描かれています。父は既に妻(大志の母)に逃げられています。兄は、警察官という多忙な職業柄仕方のない面もあるものの、大志からは妊娠中の妻をほったらかしにする男に見られています。このような家庭環境に育った大志がやがて生まれてくる兄の子をどう迎えようとしているのか、彼の内心の吐露を引用してみます。

「赤んぼうは、男ならいい」
「男が生まれたら剣道をさせる。真兄ィがおれにしたことを、いつか全部、おれもしてやる」
(p78)

武道という美名のもとでこの家の男が継承してきたものは、実は単なる暴力だったことが明らかになります。逃げたお母さん大正解。家庭の病理に鋭く切り込もうとする野心作でした。