「わたしのプリン」(川島えつこ)

わたしのプリン (ポプラ物語館)

わたしのプリン (ポプラ物語館)

前作「花火とおはじき」で日本児童文学者協会新人賞を受賞した川島えつこの第3作。10歳年下の妹が生まれた日に、しばらく話をしていなかったラッコのぬいぐるみのプリンと話せるようになった少女の物語です。
イマジナリーコンパニオンの話で、ストーリーラインとしては特に目新しいものはないのですが、川島えつこ作品は文体の美しさに浸っていればOKです。
前作の「花火とおはじき」でもそうでしたが、川島えつこ作品は生死に対してどういう態度をとればいいのかという規範を学ぶ以前の子供の視点からフラットに生命を見つめているところが特徴的です。たとえば、妹が生まれる以前に流れてしまった赤ちゃんに対する微妙な感想、水族館でほとんどか死んでしまうマンボウのたまごに思いをはせ、「たまごのうちに死んだり食べられたりした子は、生まれてきたことになるのかな」という疑問を持つ場面など、ただならぬものを感じます。
そして生死の問題は、食という問題にも行き着きます。作品世界では、あらゆる生命は食物になる可能性が示唆されてます。物語の終盤に「プリンが焼きあがった」という文が出てきてギョッとさせられます。これは食べ物のプリンのことなのですが、ぬいぐるみの名前がプリンなのにわざわざプリンを焼いてしまうところにたくらみを感じます。深読みのしすぎかもしれませんが、出産後の母親が食べまくるのが「フィンガーチョコ」であることにもなにか意図があるのではないかと勘ぐってしまいます。
川島えつこの静謐な文体の裏には、ものすごく暗いものが隠されてるような気がします。とにかく文体の美しさではここ数年に登場した新人の中では突出している人なので、今後も注目していきたいです。