2009年の児童文学

獣の奏者 (4)完結編

獣の奏者 (4)完結編

風の陰陽師〈4〉さすらい風

風の陰陽師〈4〉さすらい風

振り返ってみると今年はファンタジーの当たり年でした。特に実績のあるベテラン、中堅作家が存在感をアピールしていたように思います。今年完結した上の三作がその典型でしょう。なお「獣の奏者」に関しては、今年放映されたアニメ版がすばらしい出来であったことも付け加えておきます。また、決して多作とはいえない荻原規子のシリーズものが盛り上がっていることも特筆しておくべきでしょう。
くるみの冒険〈1〉魔法の城と黒い竜 (フォア文庫)

くるみの冒険〈1〉魔法の城と黒い竜 (フォア文庫)

こちらはまだ第一巻が出ただけですが、最初から情け容赦のないシリアス展開で期待感を持たせてくれました。
メニメニハート

メニメニハート

単発のものでは入れ替わりテーマに新機軸を導入したこの作品。設定の奇抜さと娯楽性の高さで突出していました。
天山の巫女ソニン(5) 大地の翼

天山の巫女ソニン(5) 大地の翼

山人奇談録

山人奇談録

一方デビューして間もない作家では、社会派のファンタジー「天山の巫女ソニン」シリーズを完結させた菅野雪虫と、山で起こる土着的な怪異を現代的な感性で生き生きと描き出した六条仁真が印象に残りました。ファンタジー以外に目を向けると、児童書ミステリを主導してきた「名探偵夢水清志郎事件ノート」が完結したことが大きな事件でした。
風の靴

風の靴

リアリズム系でひとつ選ぶとしたらこれです。抑制のきいたストーリーラインや筆致が重厚な物語世界を作り上げていました。

児童文学界の動き

作品以外で2009年の大きな事件といえば、日本YA作家クラブの誕生と角川つばさ文庫の創刊が挙げられます。児童文学のゼロ年代は、90年代から始まった「YA化」「ライトノベル化」というふたつの大きな流れによって盛り上がりを見せた時代でした。なのでゼロ年代の最後にこのふたつの事件が起こったことは、ゼロ年代を象徴しているように思われます。