「ローズと魔法の薬」(岡田晴恵)

病気の魔女と薬の魔女 ローズと魔法の薬

病気の魔女と薬の魔女 ローズと魔法の薬

また、幕末から明治初期にかけて、日本では何度かコレラの大流行があり、伝染病に対抗するための衛生知識普及も急務とされていた。コレラとの戦いは、文字どおり命がけの戦いであったために、しばしば戦争のイメージで語られた。図説入りの衛生書では、薬は砲弾に譬えられ、予防は「黴菌軍」と「衛生軍」の戦いとして説かれた。こうした擬人化表現を用いた物語仕立ての〈科学小説〉は、啓蒙書であると同時にSFだともいえる、しかもこの手の作品は、啓蒙書としては失敗している方が、SF史的には「トンデモ本」的で面白いという、微妙な地点に立っている。(「日本SF精神史」p85〜86)

人間を病気にする病気の魔女と人間を病気から守る薬の魔女が抗争するという設定で感染症についての知識を啓発した「病気の魔女と薬の魔女」の第二弾です。今回は魔女とアレクサンダー・フレミングが協力してペニシリンを開発するストーリーになっています。
冒頭に引用した「日本SF精神史」で解説されているように、こうした物語形式の科学啓発本は伝統あるSFのジャンルであるといえます。この作品もそれに連なるものと理解していいでしょう。
はっきりいって物語としては破綻しています。人間の研究者が薬を作るのであれば薬の魔女の存在意義はわかりませんし、病気の魔女は病気の魔女で自分の陣地で敵を遊ばせていて簡単に機密情報を漏洩させてしまい、まともに戦う気があるのか判然としません。でも、おもしろかったシーンもあります。それは魔女とフレミングが青カビを観察するシーンです。科学的な手続きを踏んで未知のものを探求する時に感じられる興奮が、うまく再現されていたと思います。