「甘党仙人」(濱野京子)

甘党仙人 (おはなしルネッサンス)

甘党仙人 (おはなしルネッサンス)

サッカーが好きな小学四年生の少年陸が主人公。陸のサッカー友達の翔の家に、北京からおじいさんがやってきました。陸はそこで初めて翔が中国人であったことを知ります。翔の家に招待された陸は、翔のおじいさんが仙人ではないかという疑いを持つようになり、おじいさんをストーキングします。
主人公が素朴な(そして素朴であるが故にたちの悪い)差別者として造形されているのがおもしろいです。陸が翔に対しておじいさんは仙人ではないかという話題を振ると、翔は露骨に不快そうな態度を取るのですが、陸はまったくそれを気にしません。おじいさんが仙人ではないかと疑うのも素朴な偏見によるものです。
もし児童文学に政治的正しさを求めるとするなら、おじいさんはただの人間であるという落ちにするのが穏当です。しかし濱野京子は、一旦おじいさんはただの人間であると見せかけた上で、最終的におじいさんの正体は仙人であったという方向に向かい、彼に様々な奇跡を起こさせました。ファンタジーを媒介にしなければ国際理解など不可能であるという冷めた人間観を表明しているようで興味深いです。