『世界がぼくらをまっている!』(工藤有為子)

世界がぼくらをまっている! (わくわくライブラリー)

世界がぼくらをまっている! (わくわくライブラリー)

北野勇作の『どろんころんど』や、角川つばさ文庫版の『ふしぎの国のアリス』『かがみの国のアリス』など、昨年の日本の児童文学界ではアリスを題材とした傑作が目立ちました。この作品もアリスを題材にとっています。しかしこの作品の主要人物はアリスではなく、ウサギの方です。
こども新聞の記者が特ダネを探して駆け回るというのが、この作品のストーリーです。そして、主人公の少年の導き手になるのがウサギに似た顔をしたウサギ男。当然ウサギは穴を目指します。ところが、このウサギ男が目指しているのは宇宙エレベーターという穴なのです。
ルイス・キャロルのウサギは想像力の海に落ちていきました。でも、夢は想像力の中だけではなく外の世界にも広がっています。21世紀のウサギは宇宙に飛び出そうと意欲を燃やしているのです。
ウサギが画策する宇宙エレベーター建造の手段もふるっています。彼は世界を創造する能力を持った画家をけしかけて宇宙エレベーターを描かせようとしていました。そんなものすごい力を持った画家の名前を、「田中さん」という平凡なものにした力の抜き方が素敵です。
タイトルからはこの内容は予想できなかったので、SF童話の思わぬ収穫になりました。