『どこからも彼方にある国』(アーシュラ・K・ル=グウィン)

どこからも彼方にある国 (YA Step!)

どこからも彼方にある国 (YA Step!)

1976年の作品。以前コバルト文庫で『ふたり物語』というタイトルで刊行されていたこともあるそうです。
ル=グウィンといえば、知的に緻密に設計されたSFやファンタジーの書き手というイメージが強いですが、この作品では別の顔を見せてくれます。『どこからも彼方にある国』は、現代のアメリカに住む内気な少年を主人公とした正統派のヤングアダルト小説です。
オーウェンは17歳の誕生日プレゼントに父親から車をプレゼントされます。父親は当然息子は大喜びするものと思っていましたが、オーウェンは車には全く興味がなく、そんな金があるのなら進学資金に充ててもらいたいと考えていました。でも、父親の前では一応喜んだふりをしていました。
この冒頭のエピソードから、主人公がいかにこの世界に向いていない人間であるかが鮮烈に印象づけられます。
他にも、中二病の時に空想していた架空の国のことを高校生になっても引きずっていることなど、痛々しいエピソードがいくつも語られます。
そもそもこの話は、主人公がテープレコーダーに吹き込んだものをさらにタイプで書き起こしたものだという設定になっています。オーウェンがその作業をしている様子を想像すると、もう痛さに耐えられません。
ル=グウィンにこんなナイーブな作品があることを知らなかったので、この作品との出会いは驚きでした。